
庵治石とともに、ここから始まる。
はじめまして。田渕石材株式会社(以下「田渕石材」)の田渕恭平です。私は、香川県高松市庵治町で生まれ育ちました。この町は、国内でも有数の高級石材「庵治石」の産地として知られており、家業の田渕石材は、140年以上にわたり、この庵治の地で石と向き合い続けてきた石材店です。
私は、その歴史あるバトンを六代目として引き継ぐことを決意し、現在その準備を進めています。
一度は消防士として社会人の経験を積みましたが、家業の大切さをあらためて実感し、現在は石材職人として修行を重ねています。石を切り、磨き、彫り、仕上げる――そのすべての工程に自ら取り組みながら、庵治石の奥深さを日々学んでいます。
石材業は一見すると静かで堅いイメージを持たれがちですが、実際には繊細な感覚と長年の経験が求められる世界です。庵治石は、ほんのわずかな違いが仕上がりに大きな影響を与えるほど扱いが難しく、毎日の作業を通して、その技術の重みと、一つひとつの石に向き合う責任の大きさを実感しています。
庵治石が直面するリアルな課題
庵治石は、「日本一高価な石」と称されることもあるほど、希少で高品質な石材です。石目の美しさ、光沢、模様の緻密さなど、職人の手で丁寧に加工されることで、その価値は初めて本物になります。
一方で、石材業界全体はいくつもの課題を抱えています。特に深刻なのが、職人の高齢化と後継者不足です。これは庵治町に限った話ではなく、全国の伝統工芸を支える地域すべてに共通する悩みです。
また、庵治石の価値そのものが広く伝わっていない現実もあります。ただ「高価な石」だと認識されていても、その背景にある歴史や文化、職人の技術については十分に知られていません。私はそこに強い課題意識を持っています。
発信する後継者としての挑戦
こうした現状を受けて、私は「伝えること」に力を入れたいと考えるようになりました。庵治石の魅力や石材業の面白さを、もっと多くの人に知ってもらいたい。その想いから、SNSでの情報発信や地域イベントへの参加、異業種とのコラボレーションなど、様々な活動を積極的に行っています。
また、庵治石をもっと日常の中で身近に感じてもらえるように、新たな分野での活用にも挑戦しています。伝統的な価値を守りながらも、現代の暮らしや感性に合ったかたちでその魅力を届けていきたいと考えています。
「石材業界って面白い」「庵治石って意外と身近で素敵」──そんなふうに感じてもらえるきっかけをつくることが、今の私の目標のひとつです。
未来につなぐために、いま動く
六代目としての歩みはまだ始まったばかりですが、庵治石に込められた地域の歴史や文化を、次の世代へつないでいきたいという想いは、私の中に強く根付いています。
伝統というものは、ただ守るだけでは続いていきません。時代の変化に合わせて伝え方を工夫し、新たな価値を創り出していくことが大切です。「継ぐ」だけでなく、「つないでいく」。それが今、私が果たすべき役割だと考えています。
もしこの記事を通じて、少しでも庵治石や私の活動に興味を持っていただけたなら、ぜひ温かく見守っていただけたら嬉しいです。そして、いつかどこかで庵治石に触れたとき、「この記事の彼がつくっているかもしれない」と思っていただけたら、それ以上の喜びはありません。
これからも、変わらずコツコツと発信と挑戦を続けていきます。皆さんの応援が、庵治石という静かな石に、次の時代を生きる力を吹き込んでくれると信じています。